『エピタフ・プロジェクト』キックオフトーク

H=細川展裕 T=立川直樹

2 なぜ LP なのか?

  • T: 細川さんがロックを聴き始めた頃ってどんなのを聴いてたんですか?
  • H: 一番最初に買ったレコードはニュー・シーカーズの『愛するハーモニー』だったと思うんですけど、中学1年の時にFM で聴いた『ハイウェイ・スター』にはガツン!とやられましたねぇ。そこからはとにかくブリティッシュ・ロックですね。
  • T: ああ、そう?(『ハイウェイ・スター』が入っていた)『マシン・ヘッド』はぼくも大好きなんだけど、ぼくがディープ・パープルにショックを受けたのは『ハッシュ』なんです。そのへんはちょうど細川さんとぼくの年齢の違いだよねぇ。
  • H: ああ、『ハッシュ』…。なるほどですね。
  • T: あれにはただならぬものを感じたなぁ。『ハッシュ』が出たのが 1968年で、いろんなところで言われてるけど、1967年ぐらいから 70年代というのがロックの黄金期ですよね。特に 1967年はドアーズ、ピンク・フロイドのデビュー・アルバムが出て、ビートルズの『サージェント・ペパーズ』も出てっていうふうにして、あのあたりから LP っていうものの価値観が決定的になっていったんだよね。
  • H: シングル盤の寄せ集めじゃない、アルバム1枚にちゃんとしたコンセプトがあるっていうことですね。
  • 立川直樹
  • T: そう。『サージェント・ペパーズ』 が出た後の1967 年の夏にモントレー・ポップ・フェスティバルが開催されるんだけど、これは発起人がジョン・フィリップスやポール・サイモンで、ミュージシャンによるミュージシャンとファンのためのフェスティバルなんですよ。ドキュメンタリーを見るとブライアン・ジョーンズが遊びに来てたりしてね。
    それでアメリカの大手レコード会社の人間たちもそういう新しいムーブメントに注目して見に来てたんです。
    その頃まではアメリカのラジオでかかる曲は 3 Minutes Hitって言って、 だいたい3分以内だったの。ジミ・ヘンドリックスの『パーブル・ヘイズ』だってシングル盤は 2 分 54 秒とかだし、The Whoだってシングルは短い分数だったのが、モンタレーではそういう曲が長く演奏されて、3 Minutes Hit 全盛時代からアルバムの時代への一つの代わり目になるわけなんですよ。
  • 細川展裕
  • H: そういうことがあったわけですよね。SPがあって LPの時代になって、それで CDが出て「あ、じゃあもう LP は無しだね」って一度はなったんだけど、でもそうじゃなかったという、つまりLPというのは歴史の中で検証されて生き残ったメディアなんじゃないでしょうか。
  • T: そういうところはありますね。さっき話に出たPMCもね、 ある時に「来年、LPの生産がゼロになる」っていう記事が新聞に載って、ああ、ついに…と思うと同時に、世の中のLPが捨てられちゃったら嫌だなぁと思ったんですよ。
    それがきっかけで金沢工業大学の人たちの理解の下に立ち上げたプロジェクトがPMCなんです。
    ぼくの好きな『Almost Famous』(邦題:あの頃ペニー・レインと)という映画に、主人公の少年が家を出て行く姉からレコードをもらうとっても良いシーンがあって、ああいう映画を見ても LP ってやっぱりジャケットも含めて「LP愛」とでも言うべき、人の思い入れをすごく許すメディアだよね。
    それに比べて「Youtube愛」なんてぼくにはとても想像もできない(笑)。
  • H:  「LP愛」か、いいですね。
    誰かと一緒に音楽を聴くって時間を共有することだと思うんですけど、LPってそういうことにすごく向いていると思うんですね。
    LP って針を落とす作業があって20分経つとひっくり返してやらなきゃいけなくてっていうプロセスがあって、レコードをかけること自体がまるでライブみたいだなって思うことがあるんです。
  • T: 集まって飲みながら聴いてる時に、「これ、A面の 2曲目がいいんだよねぇ」って言ってそこに針を落とす感じとか…。
  • H: いやー、LPって本当にいいですよね。(笑)