『エピタフ・プロジェクト』キックオフトーク

H=細川展裕 T=立川直樹

1 『エピタフ・プロジェクト』を立ち上げるにあたって

細川展裕、立川直樹

  • H: この『オンライン・レコード・クラブ~スマート・リバー~』プロジェクトのことをぼくたちは内々に『エピタフ・プロジェクト』と呼んでいます。私事になるんですが、ぼくは今年55歳という一つの区切りの歳を迎えるにあたって、今までやってきた芝居の仕事とは違うことをやりたいと少し前から考えていたんです。
    そんな中でこの『オンライン・レコード・クラブ』を始めようと決めたわけなんですが、そこでふと思ったのが、「自分の人生、あと20 年だぞ」っていうことなんです。それはもちろんもう少し長く生きるかもしれないんだけど、そのぐらいの心構えではいたほうが良いだろう、と。だったらキング・クリムゾンの『エピタフ』(=墓碑銘)っていうのは新しいプロジェクトの名称としてはぴったりじゃないかと思ったんです。
  • T: 細川さんにはしばらく前に金沢工業大学の PMC(ポピュラー・ミュージック・コレクション)を見に来てもらいましたね。
  • H: そうなんです。立川さんが作られた、あのレコード・ライブラリーを見せていただいた時の印象が鮮烈にぼくの中に残っていまして。
    あの場所でLPのジャケットが壁一面に飾ってあるのを見て、いろんな記憶が自分の中に蘇ってくるのを感じたんですよ。
    「ああ、あのアルバムを聴いていた頃はあんなことがあったなぁ」とか、「このアルバムはジャケットは知っているけど当時はお金が無くて買えなかったなぁ」とかとにかくいろんな想いが浮かんできて、LPレコードというのは、ぼくにとって特別なリアリティを持つ存在なんだよなぁと思ったんです。
  • T: なるほどね。
  • 細川展裕
  • H: それでそんなLPを、つまり自分が欲しいと思うものを売りたいと考えたんです。
    まぁ趣味半分ビジネス半分ぐらいのところでぼくが大好きだったロックのLPレコードの販売や復刻ということに携われたらいいなと思って、でもせっかく立川さんとぼくがやるんだから、復刻は復刻なんだけどぼくたちのコンセプトと人脈を通して始めた時に何が起きるんだろうかっていうのは、自分でもとても興味があるところなんですね。
  • T:  エピタフ繋がりというわけじゃないんだけど、ロバート・フィリップが前に「自分は大量生産されて大量遺棄される音楽は作りたくないんだ」って言っててね。
    それは昔、ツトム・ヤマシタが「レコードは2,500 円って、なぜ決まってるんだ? 25,000 円だっていいじゃないか。自分はそれに挑戦したい。」ってぼくに言ったことともぼくの中でリンクするんだけど、美術作品だったら1点で数十万円、数百万円なんて普通なわけで、そこまでではないにしても自分の好きな音楽作品のためなら50,000 円出してもきちんとした「現物」を買いたい!っていう人はいると思うんです。そこに付加価値があればなおさらですよね。
    でも残念ながら今の音楽業界はそういう人たちにうまく対応できていない。だから今回の細川さんの話にはぼくはすごく気分的に乗れたんだと思う。
  • H: 昨今のビジネスモデルありきの、これで一山当てて大儲けしてっていうやり方とは一番遠いところにあるやり方なんでしょうが、まぁまずはサイトを立ち上げて、それに関連したイベントやライブみたいなこともできたらいいなと思ってます。なんとなく中央線沿線あたりの変わったコンセプトのレコード屋さんってすごく楽しそうにやってそうじゃないですか。
  • 立川直樹
  • T: 細川さんやぼくみたいに、吸収力がある若い時に正しいロックの洗礼を受けた世代、それもそれまで主流だった 3minutesのシングルレコードじゃなくて、ロックのアルバム 1枚が作品としての価値を持ち始めた時代に立ち会った人間が LPレコードの復刻プロジェクトをやるっていうのは、おもしろいのは勿論なんだけど、すごく意味があることだと思いますよ。
    それとビジネスっていうことについても今でこそ音楽業界っていうのが肥大しすぎちゃったきらいがあるんだけど、あのA&Mレコードだって最初はジェリー・モスとハーブ・アルパートが自分たちのレコードを作ろうっていうところからスタートしたわけで、そういう意味ではもしかしたらぼくたちがこれからやろうとしていることって原点回帰なのかもしれないんだよね。
  • H: さっきは 20年って言ったけど、まずは10 年を目標にやれたらいいかなって思っています。
  • T: 10年やったら(復刻版は)ずいぶん出せると思いますよ。
    それにこういうことって、ムーブメントの種を蒔くような気持ちでやってると案外いろんな人が集まってきたりもするもんだと思うんですよ。
  • H: そうですね。ぼくらが始めてそれに興味を持ってくれる人がいるんだったら混ざってきて欲しいし、決して独占するつもりはないですから。
  • T: 今はアメリカでもアーティストが LP盤を作りたがっているし、日本でもアーティストがおもしろがってくれるような気がしますね。